最近、世界の企業が開発に力を注いでいるものの一つに「量子コンピューター」があります。物流における効率的なルート選定のほか、複雑な計算を要する新薬の開発、DNA分析など、様々な分野での応用が期待されています。医療の分野では、がんの放射線治療で、患者に適した安全な放射線の照射量の算出も瞬時にできるようになります。
量子コンピューターは、開発を手掛けるメーカーはもとより、部品を供給する企業、コンピューターの性能を活かして新たなサービスを提供する企業など、幅広い分野にビジネスチャンスをもたらします。こうした商機を得ようと、世界で多くの企業が開発に着手しています。具体的には、カナダの企業が2011年に商品化したのをはじめ、米国ではグーグルやIBM、マイクロソフトなどが開発を進めています。ほか、EU、英国、中国なども参入し、開発競争にしのぎを削っています。
日本はやや出遅れていますが、政府が量子コンピューターの開発を政策の一つに掲げ、2018年度から10年間、約300億円の投資を決めました。現在の開発状況は、2017年、NTTが試作機の開発に成功しています。ほか、民間企業ではNECや日立製作所などが参入し、数年後の実用化を目指して、人員増加などで体制の強化をはかっています。
ただ、まったく弊害がないわけではありません。懸念の一つには暗号読解があります。従来のコンピューターの処理能力では、解読が不可能とされていた暗号でも、量子コンピューターは性能が良いので解読できてしまう、といった負の側面もあります。こうした影の部分を解決しながら、社会が受けるメリットの最大化をどう進めるかにも注目が集まります。(了)
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)