複数の国で仕事をしていた日本国籍の納税者が所得税法上の「居住者」として日本で税務申告すべきか否かが争われていた裁判で、東京高等裁判所は「非居住者」とする納税者の主張を支持し、国側の控訴を棄却する判決を言い渡しました。主な拠点であるシンガポールで申告すればよく、日本の確定申告は不要としています。
所得税法では、国内に住所があるか、または居住の場所を1年以上持つ個人を「居住者」、それ以外の人を「非居住者」として、居住者を課税対象とすることとしています。裁判で国と争った日本国籍のAさんは、日本と外国に複数の法人を設立。日本の滞在日数は毎年100日前後で、それ以外の日は日本とは別に居住の場所があるシンガポールとアメリカに滞在していたほか、シンガポールを拠点にインドネシアや中国にも視察などで渡航していました。Aさんはシンガポールが生活の主な拠点と判断し、同国に居住者として税務申告。一方で、日本の「非居住者」であるという認識のもと、日本の税務署には確定申告しませんでした。
争点はAさんが日本の「居住者」であるか否かという点です。その判定に当たっては、滞在日数と住居、職業、生活を一にする配偶者やその他の親族の居所、資産の所在、その他の事情の5つの観点から判断すると裁判所は判示し、それぞれ事実を当てはめて判断した結果、Aさんの主張を支持する判決を下しました。
滞在日数についての国税当局の主張は、国ごとの日数を見ると日本が最も長期だった年もあることから、日本がAさんの主な拠点であるというもの。しかし裁判所は、Aさんがシンガポールを拠点にしてインドネシアなどの国に短期渡航を繰り返していることから、インドネシアなど他国での滞在もシンガポール滞在と実質的に変わらないとしました。
資産の所在については、Aさんの資産のほとんどが日本にあったことから、国税当局は日本が主な拠点であると主張。これに対して裁判所は、日本国籍を持つAさんが、妻や子がいる日本に最も多くの資産を持っているのは自然なこととして、当局の判断を一蹴しました。妻や子が日本にいることについても、妻たちの生活の便宜や子どもの教育上の配慮によるものであるので、居住者判定に大きな影響は与えないとしました。
<情報提供:エヌピー通信社>