成熟経済に移行し、投資に使い切れない余剰キャッシュが出てくると、そのキャッシュを株主還元として社外に流出させるか、あるいは、まさかのときに備えて社内留保するかの二者択一を迫られます。株式市場は当然、株主還元を歓迎します。最近話題の社外取締役の拡大も、こうした議論と無縁ではありません。社員からの持ち上がりの取締役ばかりだと、不要に内部蓄積してしまうという懸念があるからです。
たとえば、近年業績不振で赤字を計上し続けているが、過去の蓄積は膨大な会社があるとします。所属する社員からすれば、手元資金が豊富で容易につぶれない会社であることはありがたいのですが、株主から見れば無駄に資金を所有しているだけに見えます。どちらが正しいかは今後のその会社の業績が決めます。このまま業績不振を続け、蓄積を食いつぶしたまま浮上できないのであれば、厚い蓄積は社員に対して単に過保護だったということになりますし、苦難のときを経て、高収益会社に復活し、再度株価の上昇につなげることができれば、内部蓄積は決して社員に対してだけの栄養剤ではなく、長期的に株主のためにもなっていることを示すことができます。
現金預金を積み増すのは、成長投資とはかけ離れた、無駄な投資のようにも見えますが、「安心を買っている」と積極的に考えることもできると思います。ただ、こうした考え方はグローバル基準からすればあまり普遍的とはいえず、瑞穂の国特有の資本主義かもしれませんが。(了)
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター) |