損益計算書的発想からすると、インフレの起点が重要です。デマンドプル型は先に需要が拡大しますから、まず売上高が起点となります。損益計算書のトップラインである売上高が増えれば、費用である賃金を増やしても利益の増加が期待できます。ですから、デマンドプル型は「需要拡大→賃金増加→需要拡大→」の好循環が起こるのです。
一方、コストプッシュ型インフレでは売上高は変わらずに、原価や費用の増加が起点となりますから、利益を圧迫します。企業は利益を確保するために、まずその他の経費の削減を図ります。つまり経費の一項目である賃金には引き下げ圧力がかかります。それでも利益確保が難しいから、原価増大分を売上価格に転嫁しようとします。しかし、コロナ禍で現在の消費者需要は低迷し、将来を見通しても人口減から需要拡大は見込み薄であり、価格を引き上げると、数量減を招き、かえって売上高が減少してしまうかもしれません。したがって、単価引き上げは消費者の需要状況と競合他社の動向を見極めながら慎重に行わなければなりません。現状は、どんなに頑張っても、原価増加補填程度が精一杯であり、賃金増加分まではカバーできそうにありません(そこまで引き上げれば、今度は便乗値上げの批判を受けるでしょう)。
つまり、コストプッシュ型インフレにおいて賃金を増加させ、そこから経済の好循環につなげることは容易ではなく、悪いインフレを良いインフレに転化させることはかなり難しいと予想されます。もしこの状況でインフレが深刻化すれば、不況下のインフレ、つまりスタグフレーションとなる可能性が高いと思われます。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)