このパターンの違いが、国内経済にどのような影響を与えるか考えてみます。第一のパターンの業績向上に貢献したのは日本国内の労働者であり、親会社の手取り円価額が増加し財源も確保できますから、国内労働者の賃金増加につながります。一方、第二のパターンの業績向上は海外子会社によるもので、親会社の手取り円価額は増加しません。業績貢献に寄与したのは海外の労働者ですから、国内労働者の賃上げには直結しません。現在の輸出型企業の業績向上は第二のパターンが多くなっていますから、国内の一般労働者の所得向上には結びつきにくくなります。
一方、株主と経営者はほとんどの場合、連結業績で評価され、第二のパターンの業績アップでも利得を享受できます。株主は、連結業績がよければ、増配の可能性が高まります。また、経営者も海外子会社を含めた連結業績が向上すれば、グローバルな経営手腕が評価され、報酬が高くなることが期待されます。さらに、連結業績が株価の上昇に結びつけば、株主は直接的に株式評価額が上昇しますし、経営陣もストックオプション等の株式連動型報酬であれば、その恩恵を受けることができます。
つまり、第一のパターンの業績向上は一般国民の所得向上につながりやすいのに対し、第二のパターンは、所得向上が一般国民ではなく、株主や経営者などの富裕層に集中しやすくなっているといえます。近年、円安の恩恵が国民全体に広がらない要因の一つは、こうしたことにもよるのではないかと思います。
一方、一般の消費者の立場からは、円安になると輸入物価の上昇を招きますから、消費生活は圧迫されます。そうしたことを考え合わせると、一般国民の生活目線からは、以前に比べ円安の恩恵は受けにくくなっているのではないかと思います。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)